Identification of Bean goose subspecies

ヒシクイの形態と生態

​1.ヒシクイの形態と生態

 ヒシクイは,繁殖地の分布に沿って体サイズ,嘴の形状と大きさなどが連続的に変化する特徴を持っており,この連続的な変化をクラインと呼ぶ.クラインは繁殖地の気温,環境や渡り距離によってもたらされると考えられており,体サイズと嘴の大きさは西から東に向かって,また,ツンドラ~森林ツンドラ~タイガと気候帯が移り変わる北から南に向かって大型化する傾向がある(Ruokonen et al. 2008).東西方向のクラインの両端では,タイガ型のヒシクイとツンドラ型のヒシクイはそれぞれ体重が倍近く異なり(呉地 1997),その最も大型の集団が日本に飛来する.一方で,分布が接する地域の集団では嘴長等の計測値に重なりが生じ(Ruokonen et al. 2008),外部形態のみに基づいた亜種の識別は時に困難を伴う.


 ツンドラ型とタイガ型を比較すると,前者は小型でずんぐりした体型をしており,嘴は短く,基部付近と下嘴が厚いのに対し,後者は大型で首と嘴が長く,下嘴は薄くほぼ直線上である(呉地ほか 1983).また,ツンドラ型とタイガ型では,鳴き声の他,越冬地における生息環境や食性,日周行動等にも違いがある(Sangster & Oreel 1996).


 以下に亜種ヒシクイとオオヒシクイの形態と生態について,呉地ほか(1983),池内(2017),Brazil(2009),Reeber(2015)を参考にまとめた.両亜種の画像と動画も参照のこと.

体サイズと体形


体重は亜種ヒシクイがオス2.7-4.3kg,メス2.8-4kg,オオヒシクイがオス4.3-5.3㎏,メス3-4.5kgとオオヒシクイが一回り大きい.全長と翼開長は,オオヒシクイがそれぞれ90-100cm,180-200cm,亜種ヒシクイが78-89cm,140-175cm.なお,マガンは体重1.7-3kg,全長65-86cm,翼開長130-165cmで両亜種よりも小さい.体形は亜種ヒシクイがずんぐりとしていて,首は短くて頑丈なのに対し,オオヒシクイは体形も首もすらりと長く,ハクチョウに近い体形をしている.

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嘴のサイズと形


 亜種ヒシクイの嘴は短く,がっしりとしており,オオヒシクイの嘴は長くてすらっとしている.オオヒシクイはオオハクチョウのように額と上嘴が直線的につながっているように見えるのに対し,亜種ヒシクイはわずかに角度を持つ(a).オオヒシクイの上嘴は直線的かわずかに下方に湾曲するのに対し,亜種ヒシクイは基部付近で上向きに湾曲して見える(b).また,オオヒシクイの下嘴は薄く,直線的で水平なのに対し,亜種ヒシクイは厚く,基部から下方に湾曲する(c).このことから,警戒時にオオヒシクイの嘴は水平に見えるが,亜種ヒシクイは嘴を少し上向きに持ち上げているように見える.また,オオヒシクイの嘴のオレンジ部分は,より先端にあり,小さく見えることが多い.オオヒシクイは,嘴の長さ(露出嘴峰長)が嘴の基部の高さの2倍を超える.

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幼鳥

両亜種共通して,幼鳥は成鳥より小さく,細く見え,胸部の羽が不ぞろいな個体が多い.嘴の先端付近のオレンジ色は薄く,黒い部分との境目がはっきりしない.足のオレンジ色も薄い.背面(雨覆)の羽の先端は丸みを帯び(成鳥は四角い),縁の白線が不明瞭で,成鳥では波模様に見えるのに対し,不規則なウロコ模様に見える(a).また,成鳥では明瞭な脇の弧状の白い模様が,幼鳥では不明瞭(b).秋は成鳥と区別がしやすいが,冬には区別が難しくなる.

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鳴き声
亜種ヒシクイの鳴き声はマガンに近いがより低く金属的で,オオヒシクイの鳴き声は亜種ヒシクイよりさらに低く太い声で,単発的に(一声で)鳴くことが多い. 

​亜種ヒシクイの鳴き声

オオヒシクイの鳴き声 

生息環境と日周行動


いずれも湖沼など開水面でねぐらをとるが,渡り時期には雪上でねぐらをとることもある.日中は,オオヒシクイは沼沢地,亜種ヒシクイは開けた草地や農地を採食地とする傾向があり,前者はヌマタロウ,後者はオカヒシクイとも呼ばれていた.オオヒシクイは沼沢地でマコモの根やヒシの実を好んで食べるが,デントコーン畑や水田で採食することもある.亜種ヒシクイは越冬地では水田を主に利用するが、中継地では牧草地や収穫後の畑(デントコーンやジャガイモ畑)もより頻繁に利用し,植物の茎や葉を引きちぎるようにして食べる.なお,亜種ヒシクイは,マガンより早くまだ暗い時間にねぐらから飛び立ち始め,マガンより遅くまでねぐら入りをする.また,オオヒシクイは歩き方が比較的のっそりしており,左右に体を揺らすように歩く.