Identification of Bean goose subspecies

ヒシクイの分布と個体数

​1.ヒシクイの分布と個体数

 ヒシクイはカムチャツカ半島からスカンジナビア半島までのツンドラ地帯とタイガ地帯で繁殖し,ヨーロッパとアジアの温帯域で越冬する.個体数は68万から80万羽と推定されており (Wetlands International 2019),減少傾向にあるものの,種全体として低危惧種(Least Concern)に指定されている(BirdLife International 2018).

 

亜種の分布と個体数について,Reeber(2015),Fox & Leafloor(2018),Carboneras & Kirwan(2019)などを参考に以下にまとめた.

○ タイガ型(3亜種)


ニシヒシクイ A. f. fabalis


 繁殖地はスカンジナビア半島からウラル山脈までのタイガ.越冬地はヨーロッパ西部,中央部,南東部で,アジア南西部にまで達する.ヨーロッパにおける個体数は1990年代には10万羽程度で安定していたが,2000年代に入って減少傾向となり,2005年に7万から9万羽,2009年には6万3千羽,2014/15年冬には5万2千羽と推定されている.

ニシシベリアヒシクイ A. f. johanseni


 繁殖地はウラル山脈からバイカル湖までのタイガと森林ツンドラ.ニシヒシクイの東端の個体群と考えられている.越冬地は中央アジアで,トルクメニスタン,イラン東部から中国西部(Heinicke 2009).ヨーロッパでの回収記録もある.個体数についてはよくわかっていないが,1000-5000羽と推定されている.なお,Heinicke(2009)は中央アジアで越冬するヒシクイはニシヒシクイであるとしている.

オオヒシクイ A. f. middendorffii


 繁殖地はバイカル湖からカムチャツカ半島まで,南はモンゴル北部,アルタイ地方南部までのタイガ.かつてはサヤン山脈からカムチャツカにかけて連続的に分布していたとされるが,現在では繁殖地が分断化されている.越冬地は中国,韓国,日本.分布域の最も東のカムチャツカ半島で繁殖する集団は日本で,マガダンとヤクーツクで繁殖する集団は韓国と中国東部で,サヤン山脈からアルタイ地方で繁殖する集団は中国西部でそれぞれ主に越冬すると考えられている.また,ヤクーツクで繁殖する集団の一部は西日本(出雲平野)でも越冬する.

 1990年代半ばには,日本6,000羽,韓国6,000羽,北朝鮮700羽,中国5万羽,全体で5万羽から7万羽と推定されているが(Miyabayashi & Mundkur 1999),近年ではカムチャツカ集団が6,000 - 10,000羽,ヤクーツク集団が5,000 - 20,000羽,アルタイ集団が2,000 - 5,000羽,全体で13,000-35,000羽と推定されており(Wetlands International 2019),特に分布の西側で減少傾向にある.

 日本国内の主要越冬地は北日本の日本海側で,福島潟,佐潟,鳥屋野潟,朝日池(新潟県),八郎潟(秋田県),大山上池・下池(山形県),片野鴨池(石川県),福井平野(福井県),琵琶湖(滋賀県),太平洋側では,蕪栗沼,伊豆沼,長沼(宮城県),稲波干拓地(茨城県)など(宮林 1999,雁の里親友の会 2001).日本国内の主要な渡りの中継地は,八郎潟(秋田県),十勝川下流域,サロベツ原野(北海道)など(宮林 1999,雁の里親友の会 2001).八郎潟はかつて渡りの中継地だったが,近年は越冬個体が増加している.環境省レッドリストにおいて準絶滅危惧(NT)(環境省 2019).

○ ツンドラ型(2亜種)


ロシアヒシクイ A. f. rossicus


 繁殖地はスカンジナビア半島北部からタイミール半島にかけてのツンドラ.越冬地は広くヨーロッパ諸国にまたがっているが,北海・バルト海南岸集団と中央ヨーロッパ集団にわけられる.推定個体数は55万羽.全体的に増加傾向にあるが,中央ヨーロッパ集団は緩やかな減少傾向にある.繁殖地では,ヤマル半島以東の集団が減少傾向にあるとされる.一部は中国で越冬するとも考えられているがよくわかっていない.なお,日本産鳥類目録改訂第7版(日本鳥学会 2012)には「ヒメヒシクイA.f.curtus」の記載があるが,これはロシアヒシクイの最も東に分布する集団と考えられている(呉地 1997).

亜種ヒシクイ A. f. serrirostris


 繁殖地はタイミール半島東部からチュクチ,さらにカムチャツカ半島までのツンドラ.タイミール半島ではロシアヒシクイと一部分布が重なるとされている.越冬地は中国,韓国,日本.
 1990年代半ばには,日本6,000羽,韓国3万羽,中国5-7万羽,全体で5万羽から7万羽推定され,減少傾向にあるとされていた(Miyabayashi & Mundkur 1999).近年では日本2,000羽,韓国5-7万羽,中国に52,000-156,000羽,全体で124,000-228,000羽と推定されているが,推定値の増加は調査量の増加を反映しており,ロシアの主要繁殖地においては1950年代から80-90%も個体数が減少していることなどから,減少傾向は続いているものと考えられている.カムチャツカ半島北部のコリャーク山脈北東部からアナディル低地帯にかけて.またカムチャツカ半島西岸の繁殖地でも1950年代から個体数は減少し,特に後者と日本の越冬数の減少との関連が指摘されている.また,カムチャツカ半島の低地帯では1930年代までは広く分布していたが,その後30-50年で4‐5分の1にまで減少した.その後,1980年代と1990年代にかけてZakaznikと呼ばれるガン類を対象とした禁猟区が多く設けられたことで,カムチャツカ半島における個体数の増加と分布の拡大をもたらしたとされているが,2000年代に入ると,ヒシクイにとって重要な禁猟区が解除され,個体数も減少に転じていると危惧されている.一方,コリマ低地帯やチャウン湾東部では近年個体数の増加と分布の拡大が見られ,韓国における個体数増加と関連していると考えられている.
 日本国内の主要越冬地は東北地方の太平洋側で,化女沼,平筒沼(宮城県)など(宮林 1999,雁の里親友の会 2001).主要な渡りの中継地は八郎潟,小友沼(秋田県),北海道東部の濤沸湖や風蓮湖など.八郎潟はかつて渡りの中継地だったが,近年は越冬個体が増加している.環境省レッドリストにおいて絶滅危惧II類(VU)(環境省 2019).