written by 澤 祐介 ( 一般社団法人バードライフ・インターナショナル東京 )
2019年11月11日から13日にかけて、ルーマニアで、AEWAカリガネ国際作業部会の第4回会議が開催されました。
AEWAとは、Agreement on the Conservation of African-Eurasian Migratory Waterbirdsの略で、アフリカ・ヨーロッパの地域を渡る水鳥の保全のための枠組みです。移動性野生動物種の保全に関する条約(通称:ボン条約、Convention on Migratory Species: CMS)の下に作られています。第1回:2010年11月、第2回:2012年12月、第3回:2016年4月に続き、4回目の会議でした。
今回の主な議題は、2016-2019年の作業計画の進捗確認に加え、2020-2023年の新たな作業計画を策定することでした。本会議に日本からは、池内俊雄(雁の里親友の会)と澤祐介(バードライフ・インターナショナル東京)の2名で参加し、日本での越冬状況を報告するとともに、次期作業計画に日本の個体群の位置づけと調査の必要性のインプットを行ってきました。
今回の主役であるカリガネですが、大きく分けて3つの個体群に分かれています。このうち、スカンジナビア個体群、西部の主要個体群については、渡りのルートが衛星追跡により明らかになりつつあり、主要なルート上での国際協力がAEWAの作業部会を中心に進められています。
図1.カリガネの個体群の分布図
図2.カリガネの主要な渡りルート
カリガネの大きな脅威として、狩猟圧や生息地の劣化が挙げられていました。それに対する教育・啓発キャンペーンなども様々な取り組みがなされていました。
一方、東アジアの個体群については、中国科学院を中心とした調査により、コリマ川河口周辺の個体群が中国の揚子江周辺に渡っていることが明らかになってきました。しかし、最も大きな洞庭湖では、植生の変化によりカリガネの生息適地が失われつつあることや、広大な範囲のため十分な調査が行われていないことなど課題があるようでした。カリガネの個体数も減少傾向にあるようです。
日本に目を向けてみると、まとまった越冬個体が発見されるようになった2000年以降、数は少ないですが、増加し続けています。2012年には50羽以下でしたが、2018-2019年のシーズンには200羽にまで増えています。さらに、今シーズンは300羽を超えているとの報告があります。
図3.日本での越冬個体数推移
日本におけるカリガネの採餌環境は主に牧草地です。牧草地という採餌環境に加え、ラムサール条約に指定されている伊豆沼という安全なねぐら、狩猟圧がない、といった条件が重なり、個体数が安定的に増えていると思われます。しかし、その渡りルートや繁殖地、中国で減少している個体群との関係などは不明なままです。個体群全体で減少傾向が続いている中、規模は小さいながらも増加している日本の越冬個体群は、貴重な位置づけとなります。課題を一つ一つ明らかにして、東アジア、ヨーロッパ全体でのカリガネの保全について考えていかなければなりません。
第5回の会議は、2022年にエストニアで開催されるとのことです。日本チームもそれまでに発信器による追跡調査や越冬地での環境利用、自然採食地の創出にむけた研究など、少しでもよいインプットができるようにこれから頑張っていきたいと思います。
日本の状況について発表してきました。
日本からのお土産を主催者に記念撮影。
エクスカーションでは憧れのアオガンに会えました。
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