top of page
  • 執筆者の写真Katsumi Ushiyama

ガン類国際シンポジウム報告


国際シンポジウム

~東アジアにおけるガン類の保全管理に向けて~


空を覆いつくすガン類が飛来する宮城県北部の渡来地。伊豆沼・内沼、蕪栗沼、化女沼など3つのラムサール条約湿地をかかえるこの地域は、日本のガン類保護の発祥の地であり、現在は約20万羽ものガン類が越冬している。1970年代にこの地で始まった東アジアのガン類保全・研究を土台として、近年、国際協力による調査研究が飛躍的に進み、東アジアにおけるガン類の飛来状況や渡りルートなどが明らかになってきた。現在、東アジアのガン類の研究や保全はどこまで進んでいるのか?そして、今後どのような保全・管理を考えていけばよいのか?

本シンポジウムでは、中国、韓国、さらには米国のガンカモ類研究者を招聘し、東アジアにおけるガン類の渡りに関する知見を総括し、今後の保全、管理について考える。


講演要旨

<基調講演>

◆ 東アジアにおけるガン類の保全管理に向けて~科学的知見と枠組み~

                  (David Ward氏:アメリカ地質調査所)

アメリカではガン類を含む様々な種において、種の保全や個体数の管理がなされている。これらの保全管理には、生息地の保護、繁殖地でのモニタリング、渡りの把握から狩猟まで、様々な項目が含まる。発表では、北米に生息する7種のガン類のうち、コクガン、ミカドガン、シジュウカラガン、ハクガンについて、個体群動態、渡り経路等の研究によりわかってきたこと、個体数管理のために実施している狩猟等の管理について紹介した。



<セッション「日本の雁」>

◆ イントロ~過去・現在・将来~   (牛山克己氏:宮島沼水鳥・湿地センター)

日本に生息するガン類が、過去から現在までどのように人と関わってきたのか。シンポジウムの趣旨説明として、明治時代までの人とのかかわりを文化面から、1970年代に激減したのち、どのような保全施策が行われてきたのか、そして近年ガン類が増加することによってどのような課題があがってきているのかを紹介した。



◆ 希少ガン類の保全と課題      (呉地正行氏:日本雁を保護する会)

人間活動の影響により日本から姿を消してしまったガン類であるシジュウカラガンとハクガン。日本雁を保護する会では1982年からシジュウカラガン、1993年からハクガンの保全活動を行ってきた。本発表では希少ガン類を再び日本の越冬地に定着させるために行ってきた活動、その成果を発表した。



◆ 増加するガン類の管理と課題    (嶋田哲郎氏:宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)

マガンを中心として、ガン類の個体数は増加傾向にあり、絶滅の危機に陥った1970年代にくらべ、その数は60倍以上にも回復している。本発表では個体数増加の要因の一つである食物資源について、イネの収穫方法の変化や転作などの農業形態の変化と食物資源量の関係について、さらに個体数が増加することにより発生する麦などへの農業被害について発表した。



◆ 日本におけるガン類追跡プロジェクト(澤 祐介氏:山階鳥類研究所)

渡り鳥の保全管理を考えるためには、その渡り経路と経路上の重要な生息地の間で一貫した対策をとる必要がある。日本に生息するガン類について、近年、日本のガンカモ類研究者がアメリカ地質調査所、中国科学院、韓国研究者などと進めてきた追跡プロジェクトについて、マガン、カリガネ、シジュウカラガン、コクガンの追跡結果を発表した。




<セッション「東アジアの雁」>

◆ 韓国のガン類の現状と保全管理   (Hansoo Lee氏:KoEco)

韓国では、国内200か所で全国水鳥センサスが行われており、それによりマガン、ヒシクイの増加傾向、サカツラガンの減少傾向などガン類の動向が明らかになってきた。本発表では、これらの成果を紹介するとともに、近年国際プロジェクトとして実施してきた、マガン、ヒシクイ、サカツラガンの渡り追跡、環境利用の研究成果を紹介した。



◆ 中国のガン類の現状と保全管理   (Cao Lei氏:中国科学院)

中国には6種のガン類が生息している。タイミール半島からチュコト半島までの広大なエリアで繁殖するガン類が中国で越冬するが、越冬地は長江流域の狭い範囲に集中しており、これがリスクの一つとなっている。本発表では長江流域で主に越冬する5種について個体群動態と渡りルート、越冬地と保全状況を紹介した。自然の湿地で採食するサカツラガン、カリガネについては減少、農地も利用するマガン、ハイイロガン、亜種ヒシクイは増加、亜種オオヒシクイは安定となっており、自然の湿地の保護と水位管理の重要性を指摘した。



<パネルディスカッション>

東アジアでのガン類の共通する生息状況として、農地を利用するマガン、ヒシクイなどの種の増加、自然の湿地を利用するサカツラガンやカリガネなどの種の減少が見えてきた。これらの研究成果を踏まえて東アジア・オーストラリア地域フライウェイの中で、ガンカモ類の保全管理計画をつくっていくことの重要性や必要なステップについて議論した。計画を策定するステップとして、ガン類全体の計画の方針を作成したうえで、種ごとに落とし込むことが重要である。今後必要なデータとして、各種の標識調査に基づく生存率、成幼比から算出する生産率、食物資源などの基礎データを取っていくことの必要性が確認された。さらには保全管理の前提として、現在の自然の湿地を保全し、復元を促進する重要性が指摘された。







閲覧数:268回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page