【はじめに】
・中国科学院主催の長江中下流域水鳥調査2020に参加させていただきました。
・私が参加した調査期間は2020年1月4日~1月12日です(12日間)。
・現地で感じたことを含めて、簡単にご報告いたします。
【調査地域】
・担当した主な地域は長江中流域の広大な湖沼群(図1および図2参照)。
【調査地域の環境】
・長江流域は多くの支川が流入し、大小様々な湖沼が点在する。
・広大な干潟、湖沼、低層から中層湿原、水田、ハス田、畑地、溜池、疎林等の環境で構成される。
・九江市の南に位置する八陽湖(ポーヤン湖)は中国の淡水湖では最大で1992年3月にラムサール条約の登録地に指定された中国有数の野鳥の飛来地である。
【調査内容】
・3名1組(調査員、記録係、運転手)×10組(30名体制)で実施した。
・移動手段は車の移動が大半を占めた。
・日本のモニタリング1000や河川水辺の国勢調査(鳥類編)をイメージした調査方法であった。
・事前にリストアップされた53種類を記録対象種としてカウント調査を実施した(表1参照)。
・リスト以外の水鳥(例えばカワウ、トモエガモ、クロハラアジサシ等)のカウントも行った。
・水鳥以外の鳥類の記録は不要(その他の鳥類は個人的に記録した)。
・1地点の調査時間はカウントする個体数によって異なるが10~30分間。
・記録範囲の設定はなく同定できるすべての水鳥をカウントした。
表1 記録対象種のリスト
事前に作成した記録対象種の写真付きリスト(一部を抜粋)。
・現地のパートナーに見てもらったところ、喜んでもらえた。
・個体写真の一部は島根県出雲市在住の北脇努氏からご提供いただいた。
【観察記録】
・114種の鳥類が確認された、ほとんどの種類が日本との共通種であった(確認種一覧表参照)。
・代表的な種類としては、干潟や湖沼では、コハクチョウをはじめ、ハイイロガン、ヒシクイ、マガン、アカツクシガモ、ヨシガモ、カルガモ、マガモ、カンムリカイツブリ、タゲリ、ツルシギ、ソリハシセイタカシギ、ソデグロヅル、コウノトリ、ヘラサギ等の数百から数千の大群のほか、サカツラガン、ツクシガモ、トモエガモ、ホシハジロ、マナヅル、クロヅル、ナベヅル、ナベコウ等が観察された。
・耕作地、草地、疎林等では、ヤマゲラ、アオショウビン、オオカラモズ、タカサゴモズ、クロウタドリ、コイカル、キバラガラ、サメイロタヒバリ、ムジセッカ等が普通に観察された。
・日本国内でも普通に観察されるカワラヒワ、キジバト、シジュウカラ、エナガ等も観察されたが、とくにカワラヒワとエナガの形態は特有で興味深い観察ができた。
・日本では記録のない種類として、ヒメヤマセミ、チャイロクイナ、セグロコゲラ、ズアカエナガ、クビワムクドリ、シキチョウ等が観察されたほか、移入種とされるコジュケイ、ハッカチョウ、カオグロカビチョウ等も観察された。
【確認種一覧表】
【その他鳥類の個体写真】
【調査の所感】
・全体的に観察条件に左右され、カウントの精度にばらつきが生じた。
・調査地は広大で尚且つ個体までの観察距離が遠かった(1km以上遠方の場合もあった)。
・気象条件(霧、陽炎等)の変化もカウントの精度を低下させた。
・個体数が多いため、ダブルカウントの防止に苦労したほか、概数のカウントが多かった。
・観察距離、気象条件が悪いため、ツル類等の大型鳥類の個体写真の撮影が困難だった。
・休息しているコハクチョウ、ヒシクイ、マガン、ハイイロガンの識別とカウントは困難だった。
・これらの状況下で類似するオオハクチョウ、カリガネの探索、識別は困難だった。
・シギ、チドリ類も数多く観察されたが、観察条件が悪く、未カウントの種類も多かった。
・日没間際の観察のため、暗くてカウントできない種類もあった。
・調査地点が多く移動時間もかかるため長時間の観察はできなかった。
・集団分布地の位置、状況の記録が曖昧だった。
・カウントや移動で忙しいため、その他鳥類の観察が不十分だった。
・家禽(アヒル、アイガモ、シナガチョウ等)が多かった。
【調査課題】
・集団分布地の位置と状況(種名、個体数)等を記録することが望ましい。
・過去の集団分布地の記録がある場合、調査員に周知、共有することが望ましい。
・集団分布地にてカウントをおこなう際は時間帯に留意されたい(霧や陽炎を回避できる時間帯)。
・日本の河川水辺の国勢調査の観察時間は10分間で、個体数が多くて10分間で観察できない場合は30分間を上限としているが、中国は個体数の規模が大きく異なるため、個体数の状況を考慮して上限を設定することが望ましい(場所によって30分でカウントするのは厳しかった)。
・記録範囲(観察半径)を明確にすることが望ましい。
・干潟の観察時間、観察時間帯はとくに留意が必要である。
・最大干潮時は観察距離が遠方で鳥類が同定しづらいため避けることが望ましい。
・干潟は重要な鳥類が多いため、観察条件を踏まえて適切な時間帯と観察時間を設定されたい。
・観察時間の短縮にもなるため、複数名で連携しながらカウントすることが望ましい。
・調査地点に固執せず、鳥類の動向を見ながら、適宜、観察地点をずらすことが望ましい。
・分かる範囲で亜種や年齢、その他鳥類(その他の生物)の記録、写真撮影を行うことが望ましい。
【その他】
・至るところで環境の変化(開発)が見受けられた。
・人の出入りが多い場所ではポイ捨てが目立ち、ゴミが散乱していた。
・当地はモバイル決済の普及率が高く、紙幣が使えない(使えるところが極めて少ない)。
・事前に準備したモバイル決済アプリも不具合で利用できなかった。
【おわりに】
中国大陸の広大さに驚き、鳥類の個体数のスケールの大きさを目の当たりにした。さらに鳥類の魅力に引き込まれ、個体群、生息環境の重要性を身をもって体感することができました。
現地では、言葉の壁、文化の壁を感じた場面もあり、思うようにノウハウを伝えることが出来ませんでしたが、これまでの経験を活かせた場面もあり、全体的に有意義な時間を過ごすことが出来ました。
今後は、海外における日本の技術者のノウハウを活かせる体制づくり(市民参加型のモニタリング調査やひとつのビジネスとして)の発展を願いたいと思います。
私の参加を快諾してくださった宮島沼水鳥・湿地センターの牛山克巳氏、私を誘ってくださった親友の先崎啓究氏、温かく迎え入れてくださったLei Cao氏をはじめ、Xuegin Deng氏、Chang Li氏にはたいへんお世話になりました。また調査員のAntony Sasin氏には、ロシアのコウノトリや貴重な鳥類の生息状況についてご教示いただきました。
この場をお借りして皆様に厚く御礼申し上げます。
2020.03.15
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