全国より約80名にご参加いただき,日本鳥学会津戸基金シンポジウム 「新技術をもちいた鳥類モニタリングと生態系管理」が開催されました.(講演要旨集はこちら)
はじめに主催者を代表して嶋田哲郎さんによる開催趣旨説明の後,全道で鳥類の分布調査をされている藤巻裕蔵先生より,長年における調査から見えてきた鳥類の変化について基調講演をいただきました.広大な範囲で長期間にわたって調査を続けることの大変さ,また,モニタリングの重要性について,具体的にわかりやすくお話しいただきました.
自然の変化を把握し,対策を講じるためにモニタリングは不可欠です.しかし,マンパワーや予算が限られている中で,モニタリングを広域的に継続して実施していくためには,効率的に(=楽に)モニタリングを行うことが必要となります.そのための新技術として, 山田浩之 先生から 全天球型ネットワークカメラを用いた 水鳥のカウントについて,また, 小川健太 先生からはドローンを用いた水鳥のカウントについてご紹介いただきました.それぞれ陸から空から水鳥の画像を撮って数えるのですが,画像処理や自動カウントの方法などにも違いがあり,対象とする生物や調査環境によって様々な応用が可能で,今後の発展と普及が楽しみです.
次に,通常では見えない生物もドローンを使うことでモニタリングが可能になる事例について鈴木透 先生よりご紹介いただきました.伊豆沼では夏にハスが生い茂り,ハスの葉の上にチュウサギという鳥が乗って採食していますが,陸からはハスに隠れたチュウサギを見つけることも数えることもできません.そこでドローンの出番となるのですが,上空からも裏返ったハスの葉そっくりのチュウサギを見つけることが極めて難しかったため,画像処理を加えることで機械的にチュウサギを抽出することが可能になりました.また,ドローンによる調査では,対象生物が利用している環境の情報も得ることができるため,ハスの生育情報など環境情報の判読の可能性についてもご紹介いただきました.
ドローンは生物のモニタリングに対して非常に有効なツールになりますが,対象とする生物に影響を与えてしまうようでは,保全上の問題があるたけではなく,正しいデータを取得することもできません.そこで,ガンカモ類のドローンの接近に伴う反応について嶋田さんよりご紹介いただきました.ガン類,カモ類,ハクチョウ類では,様々なドローンの動きに対して異なった忌避反応を示すことがわかり,また,視覚的な刺激だけではなく,聴覚的な刺激も影響していることがわかりました,これらの成果は「ドローンを活用したガンカモ類調査ガイドライン」として公表されているので,ぜひご参照ください.
最後に,生物の生息地管理に関する新技術として,ハス刈りロボットボートの開発事例について海津裕 先生よりご紹介いただきました.現在多くの湖沼で富栄養化に伴うハスやヒシ,藻類などの異常繁茂が問題となっています.場所によっては人力や大型の専用工作船を用いた植生管理が行われていますが,コストや労力が課題となって手つかずのまま放置されている湖沼がほとんどではないでしょうか.ご紹介いただいたロボットボートは,繁茂したハスの中を楽々と航行し,低コストで省力的に植生管理を行うことを可能としていました.
総合討論では,フロアーのみなさまからの質問票をもとに,熱赤外線カメラがマガンのカウントに不向きだったこと,開発中の遠隔水中カメラのこと,気になるお値段や技術提供のこと,また,楽にモニタリングや生息地管理を行うためにはじめた新技術開発がいかに苦労だらけだったかなど,演者のみなさまから様々なお話を伺うことができました.今後,開発した新技術の発展と普及を目指し,活動を展開できればと考えています,
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